妖猫遊記
第3話
『初めての 屋根裏』
「おー!!」
律は目を輝かせながら、初めて入る社の領域に感動していた。
あまり使わない場所なのか、明かりの入る隙間などないこの部屋は、埃っぽく、心なしかじめじめしていた。
この社に来て初めて来た『屋根裏』。
暗くて目を凝らしてもよく見えないが、成人女性の両手の平くらいの大きさの子猫の律にとってはかなり広そうだ。
忙しく頭を動かしていた律だが、ある一画を見て、動きが止まった。
(…何か…いる…?)
物音はない。だが、微かな呼吸音が聞こえる。
懸命に目を凝らすが、闇が視界を阻み、姿が確認出来ない。
近いのか遠いのか分からないが、『そこにいる』事だけは、本能で分かった。
警戒し、毛を逆立て小さな身を低くする。
と、突然、火を灯した提灯が律の後ろから屋根裏を柔らかに照らし出した。
屋根裏には、埃の積もった大きな箱が幾つも無造作に置かれていた。
物影に誰かが隠れていてもおかしくなさそうな場所だ。
火が織りなす律の影が、不気味に不規則に揺らめく。
不思議そうに影を見つめる律。
「律」
声を聞いた瞬間、律の身体が動かなくなった。
いつもなら優しい声色の千弥が、重く、怒気を込めた声で話しかけてきた。
律は目をぎゅっとつむり、怒られるのを覚悟した。
「こっちにおいで」
緊張感を含んだままの千弥の声に怯えながら恐る恐る目を開き、律は千弥の方に歩き始める。
律が彼の後ろに行くと、織が千弥のふさふさ尻尾にしがみついていた。不安なのだろうか、律も倣うように、尻尾に抱きついた。
律が自分の後ろに行き尻尾にしがみついたのを確認すると、千弥は灯りを自分の顔の高さまで持ち上げた。
「…そこにいるのは、誰だ?」
千弥の問に答えは返ってこない。
不審に思い、一歩踏み出すと、相手の姿が見えた。
人の子だ。まだ幼い。
千弥は目を見開き、 それから困ったような表情になり、頭を掻きながら溜め息混じりに呟いた。
「…参ったなぁ…」
不定期で続く